代表的なシェアードワールドのひとつで、小説やTRPG、マンガやアニメなどで知る人も多い「クトゥルフ神話」をモチーフにしたゲーム。「クトゥルフ神話」の邪神が数多く登場し、根源的な恐怖に襲われる悪夢から悪夢へと渡り歩いて、正気度をガリガリと削られてゆく男の姿が描かれる。特筆すべきは高い文章力とさまざまなエフェクトを多用したグラフィックによる演出の見事さ。展開されるメモや場面によって、テキストや背景グラフィックの表示方法がガラッと変わり、プレイヤーの精神を揺さぶってくる。もちろん、そこで読める文章そのものも“いい意味で”非常に気持ちが悪い。読んでいるだけでまさしくSAN値(正気度)が削られてゆく気分だ。
とはいうものの、演出はあくまでも不安と恐怖でプレイヤーの精神を揺さぶる方向のもので、過激なグロやスプラッタシーンは存在しない(ようだ)。その手のものが極度に苦手という方でなければ、恐らく問題なくプレイできるだろう。ともかく作者の文章力と博識ぶりには感心させられた。
むしろ問題(?)となるのは、かなり本格的な「クトゥルフ神話」作品であること。「邪神紹介メモ」が用意されていたりと、配慮はされているが、はじめて「クトゥルフ神話」に触れる方には、ひょっとしたら世界観などは馴染みづらいかもしれない(「クトゥルフ神話」そのものの問題だが)。逆に、あらかじめ知識のある方には、ニヤリとさせられるシーンも多いに違いない。
ゲーム終了後に表示される二つのキーワードは取り扱いに注意が必要。それまでの作品イメージを破壊されたくない人は決して手を出してはいけない。パンドラの箱を開けると、さらなる精神攻撃に耐えるツアーが待ちかまえている。
(秋山 俊)