プレイ時間10分から20分程度の短編サウンドノベル。途中に選択肢などが表示されることもない、純粋な一本道の作品となっている。主人公の恋する相手がピクトグラムと、そこだけを取り上げると一見ネタゲーだが、「私」の心情が細やかに描かれ、とても心温まる、魅力的な作品に仕上がっている。対象がピクトグラムだからといって、それをギャグにして茶化したりすることなく、ごく普通の人間として描かれている点もよく、自然に主人公に感情移入することができた。一方で、恋のライバルとして「御手洗」さんというピクトグラムを出したり、流しと壁の間に挟まれたりと、ピクトグラムならではの演出がさりげなく挿入されている点もよく考えられている。
「私」がセリフだけで、彼がピクトグラムのため、生臭さが排除された、純粋な恋心だけを堪能できるのも「非常口さんと恋する女の子」の魅力だろう。
ひとつだけ残念な点を挙げるとすれば、「えっ、もう終わっちゃうの」という、若干の物足りなさを感じたところだろうか。だが、これ以上引っ張ると、純粋な恋心だけではすまなくなるのは間違いないので、これで正解なのだろう。
(秋山 俊)