六人の作者の個性が満ちあふれた、バラエティ豊かなデジタルノベル。ちょっと冴えない大学生の青年と、コンビニでバイトをする大学生くらいの女性、そしてストリーミング生放送の生主である女性の三人をメインキャストにしたストーリーがさまざまな設定で展開されてゆく。全作品を通して共通しているのは、基本ルートのシナリオ内で描かれた事柄のみ。そのほかは一切の縛りがなく、それぞれの作品が展開される。小林さんの名前はもちろん、「みる」の正体、星井茂樹の性格・設定それどころか、後半のシナリオの主人公が誰かすらも作品によってまったく異なる。よくぞまあ、ごく普通の男女の出会いを描いた基本ルートのシナリオからここまでかけ離れた展開を思いつくものだと感心させられる。
基本ルートを読み終えたあとに表示されるシナリオセレクト画面のタイトルやあらすじを見ると、あまりのギャップから読むのを敬遠したくなるような作品もある。だが、実際に読み進めてゆくと、いつの間にやら最初のうちに感じていた違和感がなくなり、結末が気になって、一気に最後まで読み終えてしまった。少なくとも筆者にとってはすべての作品がそうだった。
ぜひ、食わず嫌いをすることなく、すべての作品に目を通し、それぞれの作者の個性を楽しんでいただきたい――心からそう思える、非常に読み応えのある作品だ。
(秋山 俊)