新しいデザインへの挑戦
「機能はよいのだが、デザインが……」のような内容のコメントが、アプリの紹介記事などに書かれているのを何度も目撃しました。「Shuriken」のデザインだって、それを作ったとき(Windows 98とかWindows NT 4の時代)には最高にクールだったんだけど。それどころか、その時代のPC/OS上で、フェードインとかアニメーションとかを駆使したり、画面内ならどこでも壁紙(当時、壁紙はIEのツールバーにも使われるなど、一種のブームだった)を使えるようにしたりなど、最先端を行っていたのです!(当時のハードウェアとOSで、よくあそこまでできたものだと賞賛されたほどでした)
でも時は流れ、OSもWindows 2000、XP、Vistaと進むにつれて、壁紙を使ったデコラティブな画面デザインは影を潜め、実用的ですっきりとしたデザインが主流になってきました。「Shuriken」もパーツのサイズや配色を工夫して、少しでもきれいに見えるよう微調整を重ねてきましたが、どうしても古臭い感じが払拭できないでいました。
そこで今回“デザインをイチから見直す”という仕事を、若い二人の女性デザイナーに委ねました。「実現できるかどうか」とか「他のメーラがどうか」といったことは二の次で、若い感性を活かして「デザインとして格好いいか?」「使いやすいか?」という視点でデザインしてもらいました。
カラーバリエーションや「行間」を巡る攻防
その成果について、社内の一部では批判の声も上がりました。例えばカラーバリエーションについては、「個々のバリエーションの違いが微妙」「変化が少なすぎ。以前のデザインの方がよかった」という声が上がりました。これらを踏まえて、もう少し色の違いを強調してドギツイのを作ってみては? と提案してみたところ、「使えないデザインが多数あるよりも、使ってほしいカラーバリエーションをたくさん用意したい」という答えが返ってきました。これこそ、今回の「Shuriken」の主張だったのです! 結局、ユーザ登録特典などで、ちょっとインパクトのあるバリエーションを追加することを交換条件に、社内の「反対派」には納得してもらいました。
また、デザイナーの当初の指定では、フォルダツリーやメールリストの「行間」の幅は、旧バージョンに比べてかなり広くなっていました。これについても「なんか間延びしていてマヌケな感じ」とか「一画面に表示できる情報量が減った」といった意見が続出しました。結局、環境設定ウィザード(一覧画面の表示設定ページ)で「旧バージョン風」の画面スタイルを選択できるようにしましたが、できれば一度は「標準」を選択してみて、デザイナーの真意を感じてみてほしいと思っています。最初は違和感をお感じになるかもしれませんが、2〜3日も使うと、「すっきりしていて、見やすい」ことにお気づきいただけるのではないでしょうか?
送信先設定コントロールは自信作
今回、デザイン以外にも、いくつかの機能改善を行っています。なかでも一番の自信作は、送信画面の送信先設定コントロールです。以前、「Shuriken」ユーザである某パソコン誌編集長から、「オートフィルとカナサーチを同時に使いたい、候補の選択もマウスでやりたい」という要望を受けたことがありました。確かに、それができると便利そうです。また、従来の「Shuriken」の宛先設定エリアは、一覧性が悪く、意図しない相手にメールを送ってしまう危険もありそうだし、新しいデザインにもそぐわない。これは、なんとか改善したいという思いが強くなっていました。そこで今回、宛先設定に関する問題や改善要望を洗い出し、現時点で開発チームが考えつく最高の入力コントロールを再設計することにしました。
まず、最初に基本方針を掲げました。
- 従来のコントロールに比べて明確な利点があること
- 今までできていたことができなくなるのは不可
- 同じことをするのに、いままでより手間が余計にかかるのは不可
1.については、見やすいリスト型の表示コントロールを採用すれば、順序の入れ替えや、送信先の種別(To/Cc/Bcc)の変更などが簡単になりますし、さらに、送信先の候補選択もATOKの候補ウィンドウの技術を応用して便利なものが作れそうだったので、十分勝算がありました。ところが、2.と3.が曲者でした。いろいろ検討を進めていくうちに、以前のUIは見た目はショボいけど、かなりのスグレモノだったことを再認識したのです。
例えば、コピー&ペースト。宛先欄に多数のメールアドレスを設定しなければならないとき、テキストエディタ上に、コンマ区切りのメールアドレスリストを作り、それを宛先欄にコピー&ペーストするということができました。「Pro4」以前は、宛先欄はコンマ区切りのテキストデータとして扱っていたので、このようなことができたのですが、リスト型のコントロールでは、そんなことできるわけありません。しかし、それでは「いままでできていたことができなく」なってしまいます。そこで、考えに考えた末、コンマ区切りのテキストをペーストしたとき、自動的にメールアドレスごとに、複数の行として展開されるように実装しました。
これ以外にも、ちょっと使ってみたら「あれ?」と思うことがいくつも見つかり、そのたびに一切妥協することなく、何度も作り直しました。メールをよく使う他の社員にも使ってもらい、意見や感想を聞いて、チューニングを重ねました。その結果ようやく、開発者として(同時に「Shuriken」を四六時中使っているユーザとして)満足できるコントロールに仕上がったと自負しています。
仕分け機能もいろいろ強化
「Shuriken」は、従来からとても強力な自動仕分け機能を持っていましたが、「使ってはいるが設定が難しい」「設定の仕方がわからないので使っていない」といった声が数多く寄せられました。
そこで、まず、選択されたメールから条件を自動的に生成する機能を作りました。「特定のネットショップからのメール」程度なら、自動的に生成した条件のままでも仕分け設定として十分使えると思いますし、もっと複雑な条件が必要な場合でも、自動的に生成した条件をベースに、少しずつ修正を加えていけば、簡単に作成できます。
それから仕分けに関しては、「メールが希望通り仕分けられない」という問い合わせも少なくありません。設定された仕分け条件の数が増えると、どの条件にヒットしているのかがわかりにくくなるためだと思われます。今回、簡単に仕分け条件が追加できるようになったので、「あれ? こんなメールがなぜここに?」となることも増えることが予想されました。そこで、「仕分け条件の検索」という機能を用意しました。これを使えば、選択したメールが「どの条件にヒットしたのか?」を調べることができますので、仕分け条件のメンテナンスが楽になります。
さらに仕分け条件は、こんなふうにして「育て上げて」いくものなので、一度作った条件は、他のアカウントやユーザでも使いたくなることがあります。そのために、仕分けを別のアカウントにコピーする機能や、インポート/エクスポートする機能も追加しました。
このように、ユーザさまからのご意見やご要望を随所に取り入れながら、機能も使いやすさも大幅にアップしていますので、初めて「Shuriken」をお使いになる方はもちろん、すでに旧バージョンをお使いの方にも十分ご満足いただけるバージョンアップ内容だと信じています。
((株)ジャストシステム「Shuriken 2007」開発責任者:豊田 光樹)